厳しい自然と向き合い森をつくり、育てる
4月12日、環境省は2022年度の国内の温室効果ガス排出量は二酸化炭素(CO²)換算で11億3500万トン、前年度から2.5%(2900万トン)減ったと発表しました。同省によると、温室効果ガスのうちCO²の部門別排出量は、産業(工場など)3億5200万トン、(前年度比5.3%減)家庭1億5800万トン(同1.4%減)など。一方で、運輸(自動車など)は1億9200万トン(同3.9%増)で唯一増加しました。コロナ禍出控えていた旅行を再開する動きが影響したと考えられています。
排出量から森林などによるCO²吸収量を差し引いた正味の排出量は10億8500万トン(同2.3%減)。吸収量は前年比6.4%減の5020万トンでした。かつて整備した森林の木が老木となって吸収が鈍化しているといい、今後も減少傾向が続くとみています。(4/13毎日新聞より)
世界に目を向けると、世界の森林面積は1990~2020年の30年間で1億7800万ha(日本の面積の約5倍)が減少しています。(林野庁HPより)
森林減少の原因は、農地への転用、過剰な伐採、違法伐採、森林火災など、南米、アジア、アフリカなどの熱帯林の減少が目立っています。地球上には4000万種~1億種の生物が推定され、熱帯林には地球上ではごくわずかですが、生物の5割から9割が生息していると考えられています。生命を育んでいる「生物種の宝庫」である貴重な森林が熱帯林を中心に地球上から急速に失われつつあります。(森林・林業学習館HPより)
温室効果ガスの吸収源である森林が30年で日本の面積の約5倍も減少している。欧州や中国など植林を進めている国もありますが、苗木を植えCO²を吸収できる大きさに育つまでは数十年かかり、気候変動はさらに森林の減少を加速させます。目先の経済的利益より人類を含む生物社会の命を守ることを優先させなければなりません。私たちは、(株)古河機械金属様に植栽地をお借りして植樹をおこなっていますが、足尾の荒廃地で「木々を、森を育てる」ことの困難さを、身をもって知りました。
コロナ禍で足尾に来て植樹が出来ない皆さんに代わり苗木を植える「里親植樹」を行った「臼沢西の森」は、植樹地の上部はむき出しの岩が風化して亀裂が入り、落石の多い場所です。今冬は足尾も降雪日が多く、岩の隙間に入り込む水分が凍り、気温の上昇に伴って融けると岩と岩、土壌がゆるみ落石も発生します。
4月13日に加賀スタッフと「臼沢西の森」を見に行くと、土留めの甲羅板が崩れ落ちているのが目に入りました。何が起きたのか。木々は大丈夫か!と鼓動が早くなりました。
現地に立つと大きな岩が支柱を倒し、獣害柵を破り、甲羅板で段々に作った植樹地を壊しながら下の獣害柵で止まっていました。幼木を見ると、刃物でスパッと切ったように食べられていました。切り口から見ると落石で壊れた獣害柵の隙間から入り込んだウサギが幼木を食べたようです。周りにはウサギのフンが落ちていました。西側、東側の獣害柵を補強した目の細かい亀甲金網には岩が包まっていました。
20㎝程の積雪に食べる草が覆い隠され、温暖化にブレーキをかけようと植えた苗木がウサギのエサになる。人間、ウサギ、双方の命を守るための植樹ですが、ウサギは春には芽を出すように根まで完食せず、来年の食糧を確保するために「手加減」をしてくれる。
私たち人間は、「次はウサギに食べられないようにしよう」と獣害柵を補強しますが、自然を制御することはできません。自然と向き合いながら手入れをしてきた森には、シカやサル、イノシシ、アナグマ、時々ツキノワグマ、鳥、爬虫類、昆虫など生き物が暮らし始めました。熱帯雨林には程遠いと思いますが森の中で生き物や葉の食跡を見つけると生態系が蘇りつつあると感じます。
4月16日、生物の生存基盤である地球の悲鳴がまた聞こえてきました。昨年COP28が開催された中東アラブ首長国連邦の最大都市ドバイを記録的な大雨が発生し各地で浸水被害が発生しました。テレビの映像では、空港や道路、家屋が冠水している様子が映され、24時間以内に250ミリを超す大雨が観測したところもあり、年間平均雨量の2倍以上に相当する大雨となったようです。この数十年で急激な拡大を遂げたドバイは、街の大部分がコンクリートとガラスで覆われており、雨水を吸収するための緑地はほとんどないとも伝えられています。私たちは気候変動の影響が世界各地に影響を及ぼしていることを直視しなければなりません。そして、嘆いている暇はありません。
故・宮脇昭先生いわく「希望の明日を拓くのは他人まかせではいけない。一人一人が自分の命、愛する人の命、かけがえのない遺伝子の細い絆を守るために、木を植え本物の森をつくる。これは、いつの時代でもどこでも、人類が生き延びるための正攻法であると確信している。まず植える。植えながら議論しよう。机上の議論をいくら繰り返しても、それだけでは不十分である。実際に木を植え、いのちを育てていこう。」(いのちを守るドングリの森 集英社新書より)です。
「里親植樹」に参加された森ともの皆さん。厳しい自然の中で生きぬく木々を見に来ませんか。一緒に森を育てましょう。
(運営委員会 清水 卓)
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