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2023年9月 1日 (金)

私たちの大切な人間性とは

 古河機械金属㈱などが共同で設立した一般社団法人古河市兵衛記念センターが、創業150年記念事業の一環として、渡良瀬渓谷鉄道の足尾駅付近の一角で大きな工事が進めています。看板を読むと、当時の旧足尾鉱業所があった所に「足尾銅山記念館」を建設し、2025年5月に開館する予定のようです。

 古河機械金属㈱所有地内の松木村跡地で森づくりをさせていただいている私にとっては、この記念館の完成が楽しみであり、「脱炭素社会」で生きていかなければならない将来世代に向かって、どんなことを遺してくれるでしょうか。

 森びと秋田県ファンクラブの仲間たちは、銅の精錬で排出された亜硫酸ガス等で破壊した森の跡地での森づくりを応援しています。その森づくりは、故・宮脇昭さんの指導によって、同和鉱業㈱が私たちよりも一足早く始めています。秋田の仲間から紹介された森づくり主催者の同和鉱業㈱の碑文に心を打たれました。

1 碑には、「美しき峰々が広がるここ小坂の地は、明治17年当社の前身藤田組が官営鉱山の払い下げを受けて以来、122年間、地域と一体となって鉱山製錬事業を営み、日本の産業を支えてまいりました。しかし、掛け替えのない四季折々の花鳥風月を、黒き丘に変貌させてしまうものでもありました。時代は、地球温暖化、資源枯渇、土壌汚染など山積された問題の解決と、自然との共生を望み、大きな変革の時をむかえております。私たちは、大切な次世代の子供たちのために、地元の夢と期待に応えるべく、県北部産業の中心的な役割を担い、リサイクル事業を中心とする環境に優しい循環型社会の構築を目指します。当社発祥の地小坂を、春夏秋冬豊かな自然の息吹きと、力強い地球の鼓動を聞くために、覆土植栽を施し、再び開発することなく「ふるさと秋田」にふさわしい、モデル地区にすることを宣言いたします。たおやかな小坂の風景と歴史を一望しながら。平成18年9月18日同和鉱業株式会社代表取締役社長吉川広和」と、刻まれています。

2 この碑文は、将来世代が生活していく人間社会で失ってはならない最も大切な人間性ではないかと私は思っています。また、「負の遺産」を“未来の遺産”へ結びつく“希望の森”を、秋田県小坂町と栃木県足尾町で育てられていることに感謝しています。(運営委員 大野昭彦)

2023年8月15日 (火)

日本の森林に関する基本的な計画

 暑い日が続いているなか、暑苦しい話題で失礼します。

 林野庁のホームページを見ていたら、いいのを見つけました。「全国森林計画」です。

 日本の森林計画の仕組みをざっと書くと、最初に「森林・林業基本法」に基づく「森林・林業基本計画」があり、これに即して「森林法」に基づく「全国森林計画」があって、ともに5年ごとに見直しをします。さらにこの下に具体的な地域ごとの計画として、民有林には都道府県、市町村、森林所有者等が定める計画があり、国有林では森林管理局ごとの計画があります。

 この「全国森林計画」(令和6年4月から令和21年3月までの15年計画)の案が現在公表され、いわゆるパブリックコメントの募集を行っています。林野庁の公式な表現によれば「この度、「全国森林計画(案)」について、広く国民の皆様から意見・情報を募集いたします。」とのこと。締め切りは8月23日です。

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 全国計画ですから、はっきり言って具体性に欠け、意見をだすのは難しいところです。とはいえ、皆さんが興味を持ちそうなところをあげれば「Ⅲ 森林の保全に関する事項」という項目に、森林の土地保全、保安施設、森林の保護等についての記載があります。

 興味のある方は、一度林野庁のホームページ(https://www.rinya.maff.go.jp)をごらん下さい。さらに意見を出していただければ、元林野庁職員の一人として、大変ありがたく思います。

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 暑苦しい話を続けたので、最後に少し涼しい写真を貼っておきます。松本市の奥、奈川地区で収穫調査をしていた時の一枚です。渓流には野生?のワサビが生えていました。

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(運営委員・井上康)

 

2023年8月 5日 (土)

僅かに残された森をまもるために

明治神宮の外苑の木々が伐採されようとしています。著名人をはじめ多くの人が反対を表明していますが、個人的にも、できれば、議論を尽くして、開発規模を縮小または撤回する方向に動いて欲しいと願っています。

※私たち森びとも7月24日東京都に対して意見書を提出しました。詳しくはリンク先をご覧ください。

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つい最近聞いた話では、都内にオオタカが住み着き、フクロウまでもが適応し始めているそうです。カラスが減ったからだということもあるらしいですが、こういった猛禽類が生きていくことができる環境が一定数あるということなのでしょう。

外苑の森を含めて明治神宮の森はそういったわずかながら残っている都内のオアシスの一つに数えられます。こういった場所は守られこそすれ、開発の対象となるとは考えにくいものでした。この時代に逆行するような、いってみればタガが外れるような悪しき前例がまかり通れば、この後守るべきものには一体何が残るのでしょうか。

このような公共の場では、木々を中心とした無数の命の営みを破壊して、ここでなくても良い人工物を作るより、すでに数少ない都市の自然を守り、すでにある緑とそのみどりを培った歴史を大切にするほうがよほど理にかなっていると考えます。

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大きな樹木は周囲と複雑なつながりを持ち、たくさんの命をはぐくみます。この1本の木を切ることが、どれだけの命のつながりを断つことなのか、についてですら単純に言及することはできません。「目に見えること」だけではかり知ることはできないのです。だからこそ、そういうことを考える想像力をそれぞれが持つということと、より多くの人にきちんと理解してもらえるような説明力がいま本当に求められているきがしてなりません。

来月9月10日(日)に、私たちは外苑の森を歩く「エコ散歩」を企画しています。具体的な内容はまた別途森の風だよりでお伝えしますが、「エコ散歩」では「目に見えないもの」を見ながら歩きたいと考えています。一緒に歩き、そしてこの場所で起きている問題を捉え、どうしたらいいのかを考えましょう。たくさんのみなさまのご参加をお待ちしています。(運営委員 小黒伸也)

2023年7月18日 (火)

東電福島原発事故と住民訴訟

    昨年11月に仙台高裁は福島原発南相馬訴訟について、故郷の変容による慰謝料などを認め、東電に一審を上回る損害賠償金の支払いを命じる判決を出した。上告した東電は今年3月、上告を取り下げたため、判決は確定した。

    7月16日、東電は南相馬訴訟の原告団に対し、福島復興本社の高原一嘉代表は「取り返しのつかない被害と混乱を及ぼしてしまったことについて、心から謝罪いたします。事故の反省と教訓を胸に、あのような大きな事故を二度と起こさないことを固く誓います。」と福島県南相馬市内で謝罪した。

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    原発事故は損害賠償金を支払えば解決するものではない。最悪な環境汚染をもたらし、事故前の状態に戻ることはない。事故から12年経っても使用済核燃の取出しも見通しが立たない。廃炉は決定したもののいつ終わるのか分からない。

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    このような中、国と東電は漁業者との約束さえ守らず汚染処理水の海洋放出を強行しようとしている。「福島の復興なくして日本の再生なし」と誓った政府は、福島の復興をしないまま原発の再稼働と新増設を決定した。政府は、原発事故を教訓にするつもり全くない。

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    このことが世界から取り残される原因だと思う。(運営委員会代表・桜井勝延)

2023年7月 1日 (土)

未来を守るために連帯していこう!

 5月27日に開催した地球環境危機下で「いかに生きるか」を考えるシンポジウムにパネラーとして参加をいただいた横須賀火力発電所建設を考える会代表の鈴木陸郎さんが団長となり、JERA(中部電力と東京電力ホールディングスが共同出資する発電会社)が計画した横須賀火力発電所1‐2号機の建設中止を求めて市民が国に計画中止を求めて訴訟を起こして闘っています。今年1月に行われた東京地裁での第一審では、原告らの請求を棄却する不当な判決が出され、すぐさま控訴をしました。

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 そのような中、昨日6月30日にJERAは第1号機の営業運転を開始し、来年には2号機の運転が予定しています。世界中で気候変動は深刻化し、生存の危機を身近に感じる昨今、CO2排出を抑えることを世界の潮流ですが、年間726万トンものCO2を排出する石炭火力発電所の稼働はあり得ません。

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 今月21日には東京高裁101号法廷で第1回控訴審(10:30~)が行われます。政府は2050年までにカーボンニュートラルの宣言、横須賀市も2050年までにゼロカーボンシティを宣言していますが、言っていることとやっていることが180度違います。明治神宮外苑再開発での大量の木の伐採問題と共通しているのは、地元の反対の声を聞かず、企業等一部恩恵を受けるもののために経済優先が貫かれていることであり、地元住民にとってメリットはありません。横須賀市だけではなく私たちの問題であり、未来への責任です。近隣のファンクラブと連携をして原告団と一緒に闘っていきたいと思います。

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(運営委員 小林敬)

2023年6月 1日 (木)

私が影響を受けた『マイナス成長の経済学』

 前2回は私が仕事として携わっている「新しい林業」について紹介してきましたが、今回は少し趣向を変えて本の紹介をしたいと思います。私の本棚にあったのを最近再読しました。かなり古い本でして、奥付を見ると昭和62年11月30日発行。35年ほど前の本です。私自身のことをいえば友人と50ccのバイクレースに興じていたころですね(懐かしい)。著者の室田さんはこれも奥付によると一橋大学経済学部教授(数量経済分析)となっており、ウィキでみると2019年にお亡くなりになりました(合掌)。

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 内容は、戦後日本経済の発展をエネルギー革命(薪炭→石炭→石油→原子力)の流れと主に自給で成り立っていた地域経済の崩壊を論じた第1部、原子力発電の経済性(不経済性)を論じた第2部、エコノミクスとエコシステムとエコロジーを論じた第3部からなっています。文章は結構読みやすい。ただし、35年前のものなので、例えば国の景気を判断する指標が現在のGDPではなくGNPであったりしますが、内容が間違っているというほどの影響はないように思います。

 第1部で興味を惹かれるのはやはり燃料革命と山村・林業の変化、いわゆる拡大造林(広葉樹の山をスギ、ヒノキ、カラマツへ転換)が経済的にどのような流れで行われたのか、高度経済成長の中で農産物や林産物の輸入を拡大せざるを得なかった流れなどが、わかりやすく説明されているところ。

 第2部は原子力発電がどういう位置づけで日本に導入されたのかから始まります。一番驚かされたのは、火力発電では1単位の電気エネルギーをつくるのに3単位の石油エネルギーを使うのに対し、原子力発電では核分裂による熱エネルギー3単位に加え3単位の石油エネルギーが必要(ウラン235の精製や放射性廃棄物の保管を考慮すると)という試算がされていること。結局、今の福島でおきていること、フィンランドの放射性廃棄物最終処分場「オンカロ」のことなどを考えると、原子力発電はものすごく不経済だという事実が明らかにされています。

 第3部ではエントロピーの概念を紹介しながら、水を中心とした地球の循環システムについて解説されており、なるほどこのために地球が温暖化すると降雨が激しくなるんだなと納得しました。

 若い頃に読んで、かなり影響を受けた本です。もしよろしければ先着1名の方にプレゼント(送付)します。希望される方は森びと事務所の小林あてに送付先住所氏名を明記してメールもしくは電話して下さい。ただし古い本なので、かなり寄れていますご容赦ください。

(運営委員・井上康)

2023年5月15日 (月)

気候変動対策は待ったなし!天空の森から岸井さんの声が聞こえる。

 2004年12月10日、NPO法人森びとプロジェクト委員会を立ち上げ理事長として「森づくり」を牽引。環境問題や政治の劣化に対してジャーナリズムの精神をもって声を上げてきた岸井成格さんが「天空の森」に旅立って早や5年(2018年5月15日逝去)になります。

 命日前の5月13日、コロナ禍で控えてきたお墓参りに行こうと、岸井さんの好きだった日本酒(純米酒)を抱えて電車に乗り多磨霊園へ向かいました。

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 5月5日に松井さん、岩田さん、阿部さんら東京都ファンクラブの皆さんが草刈り、サルスベリの伸びた枝の選定をしてくれたので、墓石の周りは綺麗になっていました。ありがとうございました。小雨が降り出しましたが、伸びはじめた“どくだみ”の小さな葉を摘みながら、天空の岸井さんとの会話を楽しみました。

 お墓に日本酒と栗饅頭をお供えし合掌。18年前に足尾の荒廃地に植えた苗木は、沢山の生き物が暮らす森に育ったことや、岸井さんが危惧した地球温暖化は世界中に被害を及ぼし、気候危機という認識に進んでいることなど墓石に向かって語りかけました。

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 「知ってるよ。それで、どうするんだ!」と叱咤されているような気持ちにもなりましたが、「5月27日に温暖化の被害を受ける農家や漁業従事者、体温を超える気温下で働く労働者、未来を生きる若者の声を聞くシンポジウムを開催するので、岸井さんも天空からオンラインで参加してください」とお願いしました。

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 多磨霊園内はスダジイやカシノキ、ケヤキ、モミジ、マツなどの巨木に覆われ、木の下に潜ると雨宿りができました。何年生きているのだろうと携帯電話のネット検索で歴史を調べると、1923年に開園しているので開園時に植えられた樹は100年になります。その間には東京大空襲もあり、東京都内に残る自然教育園や神宮の森、外苑の銀杏も「無言の語り木」と言えるのではないだろうかと思いました。

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 先人の眠る神聖な森の中に留まっていると樹々たちの会話が聴こえてくるようです。「経済ばかり追い求めた結果が今人間たちに返って来ている。若者たちの未来のために森と生きる暮らしに立ち返れ」と。

 「政治も自然環境も、そして市民のパワーも“劣化”させてはならない」と地球と人間の未来を案じた岸井さん。4月29日に足尾町・中倉山の尾根の南斜面に「孤高のブナ」のDNAを持つ幼木を植え「希望のブナ」と名付けました。そこには10代の高校生から80代のシニア、海外からの留学生、日光森林管理署署長を含め41名が参加をしてくれました。

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 岸井さんが蒔いた「森びと」の種が大きく育ち、煙害、風雪に耐え抜き生きる「孤高のブナ」のパワーと共に森びとの輪が広がっています。「気候変動対策は待ったなし!」、多くの“森とも”の皆さんと手を携え希望の“たいまつ”を燃やし続けていきます。

(運営委員 清水卓)

2023年5月14日 (日)

“森びと”の心に木を植えてくれた青木淳一先生

 Photo  今日は青木淳一先生の「お別れ会」に出席してきました。お別れ会の世話人代表は森びとプロジェクトアドバイザーの島野智之さん(法政大教授)が努め、会には北海道から沖縄の皆さんが集っていました。同席した中村幸人さん(森びとアドバイザー)と私は青木先生が歩んでこられたダニの研究とその情熱を心に刻むことができました。最後に、生前の青木先生から仲間たちに伝えて欲しいことを奥様から紹介されました。

Photo_2  以下、『青木淳一先生追悼文集』に投稿した私の感謝の気持ちを紹介させていただきます。

Photo_4 青木淳一先生! 森の下に「もうひとつ」の森があることを教えてくださってありがとうございました。その「もうひとつ」の森には肉眼では見えづらい生きものたちが、上の森の生物に欠かせない生存土台をつくっていました。この様な現実に支えられて生きている己ということを考えたことがなかった私からすれば、先生にお会いした時は目から鱗であり、リタイヤ後の限られた人生を歩む世界を拡げてくれました。とても嬉しく思っています。

 それまでの私は労働組合運動を通して様々な社会悪と対峙していた時期がありました。その当時は、己が生存している冷厳な現実を深掘りするということは頭の片隅にもありませんでした。振り返ってみれば、社会運動を推進していく場合においても、生活現場や労働現場に起きている事象に向き合うにしても、私たちが生存していることと社会システムの関連に向き合っていかなければならないと思っています。当時の右肩上がりの経済成長期では、木を伐り、山を削り、コンクリートで工場や高速道路、そして鉄筋住宅を造り、そのための燃料は化石燃料を燃やして大量生産・大量消費・大量廃棄の社会をつくりだしました。それは、自然環境への多大な負荷のかけ過ぎを招き、新型コロナ感染と気候変動による「複合災害」の社会を迎えてしまうのではないかという不安は微塵もありませんでした。

 3年前から世界の人々が初体験している新型コロナ感染と気候変動による「複合災害」禍に生きている私にとって、青木先生との出会いは、私の将来世代の人間社会を描き実現していく“希望の灯”の基礎になり、この灯は消さないようにしていきます。

 青木先生は、「人類にとって大切なことは、生態系の中で生産者の主役を務めている樹木にまず敬意を表し、普段は地面の下にいて目に触れない分解者の働きに思いを馳せ、自分たちはこの両者に生かされている消費者であることを自覚することである。消費者の中では例外的に強い力を持ってしまった人類は、生産者である森を破壊することもできるようになってしまったが、同時にまた、森を守り、創造する力をも与えられているのである。」と述べていました。このことは、人間社会の礎に据えなければならないと思っています。

 これからの社会を生きるために、私の心の中には「自然の恵みはほどほどに消費する」、「天然資源は独占・支配してはならない」、「人は森の手入れをする責務がある」というスローガンを掲げることができました。衷心から感謝申し上げます。 

 先生は、デパート屋上のコンクリートの割れ目、赤坂の森、明治神宮の森、石垣島の森、会津の森、そして栃木県日光市の足尾銅山跡の荒廃地と岩手県八幡平市の松尾鉱山跡地の荒廃地に立ち、枯葉や土を新聞紙に包み、段ボール箱に入れ、それを自宅に運び、時間をかけて生きものたちを観察してくれました。その過程では、先生は私たちを自宅に招いてくださり、観察とその整理の様子を私たちに見せてくれました。ときには、何十年間もの観察資料の原本を見せていただきましたが、そのひとつひとつ、一枚一枚が先生の人生そのものではないかと感じました。

 森の下の森の友だちはダニ、ミミズ、ワラジムシ等の地中の生きものでした。しかし、多くの方々はその生きものを敬遠し、肉眼では見えづらいこともあって、先生の言う「普段は地面の下にいて目に触れない分解者の働きに思いを馳せ、自分たちはこの両者に生かされている消費者であることを自覚する」ことはとても難しいことであると思います。

 そんなこともあって先生は、顕微鏡や虫メガネで観たササラダニを精密に拡大描写するという根気のいる観察調査を生涯の仕事にしていたのではないかと思っています。大きく描写されたササラダニたちのスケッチを見せていただくと、なんとなくスケッチにホッとしますので不思議なものです。森の下の森の友だちを大切にしてほしいと願っていた先生の繊細な一本一本の線には、そのような思いが通っているようでした。また、先生は、森の妖精が大好きでした。足尾では、子供たちと森を歩きながら森には妖精がいることを話してくれました。奥日光の森で会った妖精の話をした後、子供たちが妖精を描いている様子を見ている先生の笑顔が忘れられません。

旅立たれた今、私は、天空の森で妖精にお会いしてる青木先生を思い浮かべています。先生!天空の森で私たちの森づくり活動を見守っていてください。

 今年、足尾銅山が閉山して50年目を迎えました。2年後の2025年は、足尾銅山の操業150年迎えます。煙害や山火事でハゲ山になった荒廃地は国や県が本格的に始めた治山・緑化事業から半世紀が経ちました。しかし、足尾ダムから松木川上流に向かって3時間ほど歩いていくと、岩肌がむき出しになっている山が連なっています。この地に雷雨が襲うと、1時間も経たないうちに松木川の水は赤茶色に変わり、その勢いはしり込みするほどの恐ろしさを感じます。

 この地は、強い力を持ってしまった消費者である人間の公害の原点(「足尾銅山の負の遺産」)と言われていますが、後世に遺すことは「負の遺産」だけではなく、「生産者である森を破壊することもできるようになってしまったが、同時にまた、森を守り、創造する力をも与えられているのである」という意味と実践を、将来世代に遺していくことだと思っています。 

青木淳一先生!“森びと”の心に木を植えていただきありがとうございました。天空の森では、先立たれた岸井成格さんをはじめとした森びとの皆さんとゆっくりとお休みください。合掌Photo_5

2023年5月 5日 (金)

脱炭素社会の”希望と不安”を曖昧にしない

 5月なのに真夏のような天気予報。朝夕と日中の気温差が20℃以上もある「こどもの日」。行楽日和かもしれないが、アメリカやスペイン、中国大陸等も温暖化による異常気象が人々の生活を脅かしている。そんな中で、私たちは「脱炭素社会」下での生活スタイルへ向かっている。この地球で生きていくためには避けて通れない生活スタイルの見直し。20230505 将来社会を生きる世代にとっては「脱炭素社会」にはどんな希望を持ち、どのような不安を抱えているのだろう。労働現場と生活現場の変化にどのように対応していくこうとしているのか。シニア世代にとっては「脱炭素社会」の“希望と不安”から逃げるわけにはいかない。何故なら、世界の人々が初めて体験している「複合災害」の要因は我々の世代も含めた人間活動の結果であるから。220505

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 先月29日に実施した「中倉山のブナを元気にする恩送り」では拓陽高校生と話す機会があった。生徒達とは中倉山に植えた「孤高のブナ」の子孫を見守っていく話ができた。今月27日には、「地球環境危機下で“いかに生きるか”を考えるシンポジウム」が実施される。足尾の森づくりを一緒に行ってきた桐生市の樹徳高校生と討論ができることになっている。当時三年生だったK君は、シンポジウムのパネラーの一人として意見を述べてくれる。森びとのシニア達は現役時代と森づくり活動で培った事をまとめて、パネラーとの討論が嚙み合うようにしていきたい。20230505_2

20230505_4 想定外の異常気象の猛威を少しでも抑えていくためには温室効果ガス(二酸化炭素排出)の排出を削減しなければならない。そこには化石燃料関連で働く方々の仕事を奪い、労働現場を再編するということ等が含まれる。農家の方は、化石燃料燃焼によるビニールハウス栽培の変更を迫ることになり、消費者からすれば季節外れの野菜や果物の消費は諦めなければならない。そのような生活は反対だ!ということであれば、毎年巨大化する想定外の異常気象の猛威に怯えた生活に耐えていかなければならない。さらに、原発は想定することが難しい異常気象下で稼働していくことになり、私たちの命と健康維持はますます不安定になる。Photo 脱炭素の生活は避けて通れない。将来世代の“希望と不安”を自分のこととして向き合い、「脱炭素社会」を働く者、漁師・農家・若者たちの視点から深掘りしなければならない。その出会いの場を大切にしていきたい。(顧問 髙橋佳夫)

2023年5月 1日 (月)

都政、国政も反対の声を無視

20230501_191503 現在、明治神宮外苑地区の再開発計画が進められていますが、その計画の見直しを求めて闘っている団体そして市民等が多くいらっしゃいます。音楽家の故・坂本龍一さんが闘病中にもかかわらず、反対の声をあげていたことでご存知の方もいると思います。計画では、超高層ビルを建てて商業開発を行うとともに、神宮球場や秩父宮ラグビー場の建て替えが行われるため、樹木の大量伐採やイチョウ並木への影響が問題となっています。20230501_143539

 遅まきながら、現地を歩いてみました。上の写真は外苑前から望むイチョウ並木です。気温が20℃を超える日でしたが歩道は太陽の光を遮ってくれ、涼しく感じましたし、カフェやベンチで寛ぐ人の姿を見ると、ここは市民にとっての憩いの場だと感じます。

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 球場の脇を通り、新国立競技場の裏には白いフェンスに覆われた一帯があります。すでに工事が始まっているのか、看板の設置やガードマンの配置がされていました。仕事のため、参加できませんでしたが、4月1日にはこの建国記念文庫の森のまわりを「人間の鎖(ヒューマンチェーン)」で抗議活動が行われた場所です。

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 この森には低木を含め3,000本以上の樹木があり、樹齢100年を超えるものもあるそうです。まさに貴重な都市の緑よりも金儲けに走る愚行としか言えません。SNSでは再開発反対の抗議行動の情報は随時発信されていますので、気になる方はチェックをしてみて下さい。また、下記はすべてではありませんが、いくつかオンライン署名が行われていますので、気になる方はチェックしてみて下さい。

経営コンサルタントのロッシェル・カップさんが行っている神宮外苑再開発計画の見直しを求める署名https://www.change.org/p/%E7%A5%9E%E5%AE%AE%E5%A4%96%E8%8B%911000%E6%9C%AC%E3%81%AE%E6%A8%B9%E6%9C%A8%E3%82%92%E5%88%87%E3%82%89%E3%81%AA%E3%81%84%E3%81%A7-%E5%86%8D%E9%96%8B%E7%99%BA%E8%A8%88%E7%94%BB%E3%81%AF%E8%A6%8B%E7%9B%B4%E3%81%97%E3%82%92?utm_source=share_petition&utm_medium=custom_url&recruited_by_id=e7f772f0-85a2-11e8-aa85-3f9d4b12376c&s=03

元ラグビー日本代表・平尾剛さんが呼び掛けている「ラグビーの聖地」の移転・改悪を止めよう署名

https://www.change.org/p/%E7%A7%A9%E7%88%B6%E5%AE%AE%E3%83%A9%E3%82%B0%E3%83%93%E3%83%BC%E5%A0%B4%E3%82%92%E3%81%93%E3%81%AE%E5%9C%B0%E3%81%A7%E7%B6%99%E6%89%BF%E3%81%97%E3%81%9F%E3%81%84-%E3%83%A9%E3%82%B0%E3%83%93%E3%83%BC%E3%81%AE%E8%81%96%E5%9C%B0-%E3%81%AE%E7%A7%BB%E8%BB%A2-%E6%94%B9%E6%82%AA%E3%82%92%E6%AD%A2%E3%82%81%E3%82%88%E3%81%86

(運営委員・小林敬)