来年4月から徴収される「森林環境税」の問題を考える
2019年3月に「森林環境税及び森林環境譲与税に関する法律」が成立し、「森林環境税」及び「森林環境譲与税」が創設されました。
森林の有する公益的機能は、温室効果ガスの削減、土砂崩れの防止、水の貯留や水質の浄化など、国民の暮らしを支えています。一方で、林業の採算性悪化、担い手不足などにより、手入れが行き届かない森林が増え大きな課題となっています。そのために令和6年度より「森林環境税(国税)」を住民税と併せ国民一人1,000円/年を徴収されます。620億円と試算されている税収は、各都道府県、自治体に配分し森林整備、人材育成、木材利用などの取り組みに活用するとしています。
2013年から23年までの10年間「復興特別税」として、国民一人1,000円/年が徴収され、地方自治体の防災事業の財源になっていました。その税は令和6年で期限が切れるため、今回の「森林環境税」として穴埋めされ徴収されるといいます。また国は、国民からの納税がはじまるまでは、国土保全、地球温暖化防止、生物多様性の保全など森林整備が緊急課題であるとして、2019年からから1,500億円の交付金を都道府県に交付しています。しかし、その交付金は約半分が使われていないという状況です。
世界の科学者が地球温暖化に警鐘を鳴らしてきましたが、政府や企業の温室効果ガス削減や再生可能エネルギーへの転換の遅れから、経済活動によって排出される温室効果ガスは森林や海洋が吸収できる量をはるかに超え気候変動の危機を早めているといえます。
政府は森林整備に関し、花粉症が社会問題になっているので、「花粉症対策」として、伐採後に「花粉が少ないスギの苗」を植えるとしています。
日本の森林をどのようにしたいのか、グランドデザインを示して、そのためにお金をこのように使うと具体的な事を示さず、現在のスギの人工林を2割程度減少させ、伐採後に花粉が少ないスギの苗を植えるという「森林環境税」の使途・考え方は抽象的で賛成できません。
その理由は、異常気象による大雨によって土砂崩壊が発生していますが、その倒木、流木の多くが針葉樹であり、それは根の浅いことに要因があると思っています。同時に、当時の造林計画とその後の森林管理等の弱点があると思っています。よって、この税金は、国民の命を守る母体として森の多機能が発揮できる森づくりとその管理に充てるべきと思います。
花粉症対策に充てることも大切ですが、伐採コストがかかりすぎて放置されている山奥のスギを伐採して新しいスギを植えるのであれば、それは新しいスギではなく落葉広葉樹を植えるべきと思います。生態系豊かな森に育て「森のダム」となり、深い根による豪雨災害を少しでも抑制し、ミネラル豊富な水を溜めて流し、生物に欠かせない食物連鎖を健全に護っていけるようにしなければならないと思います。
[スギ・ヒノキ伐採跡地に落葉広葉樹を植林した日光板橋「城山の森」(栃木県FC)]
このような考え方に基づいた人材育成と森の手入れ、同時に、地域での啓発活動を進めるべきではないかと思います。税金は国から地方行政へ補助されますので、納税者は各地域でその税金が国民全体の利益に結びついているのかをチェックしていかなければと思います。
(運営委員 大野昭彦)
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