明治神宮外苑の森にすむ土壌動物の「民意」は東京都に届いているか
9月10日、神宮外苑の森を歩くエコ散歩を開催し、参加者の皆さんと一緒に中村幸人植生アドバイザー(東京農業大学名誉教授)の説明に耳を傾けました。
明治神宮や神宮外苑の森は、100年前全国の皆さんから資金や苗木が贈呈され、市民ボランティアの協力で作られたことが伝えられています。
中村アドバイザーは草や木の葉に触り、時には匂いを嗅ぎ、人工的に作られた生け垣や森の中に鳥や風が運んだタネが発芽し森の一員になっていることを教えてくれました。
神宮球場の外輪の森に“タブノキ”の幼木を発見。中村アドバイザーは「本命の木。これからこの森をつくろうとして生長を始めている。全体が森の形になっているからここで生長できた。大きくなれば本来の常緑の森に戻っていく。その“さきがけ”であるとみることが出来る」と教えてくれました。100年前に作り始められた人工林が鳥や昆虫、爬虫類など生態系を構築し、300年400年生きる自然の森に遷移しようとするダイナミズム、その“さきがけ”に立ち会うことが出来、感動をおぼえました。
当初観察する予定だった「御観兵榎(ごかんべいえのき)」が記念樹として植えられた旧青山練兵場跡に残る外苑の森が「都合により閉園」だったため、道路向かいの小さな森に入り観察。気温35度を超える外苑を歩き汗だくでしたが、ひんやりとし、しばし体を休めました。自動車が行きかう場所で緑の葉を広げ、森に寄り添う人々に安らぎを与えてくれる樹木は誰に支えられているのだろうか。
NPO森びとの顧問として森の下に住む土壌動物の存在を教えてくれた故・青木淳一横浜国大名誉教授の本「だれでもできる やさしい土壌動物の調べ方」を教科書に、落ち葉の下の土をすくい観察しました。
ルーペの他にスマートフォン用のマクロレンズを使い、土の中に住む生き物を探しました。目視では何か白いものが動いている程度ですが、1㎜~2㎜ぐらいの生き物が2㎝ぐらいに拡大され、落ち葉を食べておなかの中に「落ち葉のソーセージ」をためている様子を見ることが出来ました。一握りの土の中にワラジムシやコムカデ、ジムカデ、ヤスデ、トビムシ、陸貝など何種類もの土壌動物を確認することが出来ました。ササラダニは顕微鏡が無いと見ることが出来ないため、東京都や大学などの研究機関に調査を期待したいと思います。
本「やさしい土壌動物の調べ方」を開き、確認できた土壌動物を調べてみると、『「自然の豊かさ」を評価するための32の動物群』では「わずかな環境変化にも敏感なグループA」(5点)には陸貝、ヤスデ、ジムカデ、コムカデが含まれています。「中間のグループ」(3点)にはワラジムシが含まれていました。100年もの長い年月をかけて、劣悪な環境にも耐えられるグループの生物たちが土壌を作り変え、その土地本来の木々、ケヤキやスダジイが生長し、鳥が運んだタブノキの種が森の仲間になるなど、神宮外苑の森が豊かな自然環境を保持していることを示しています。
故・青木淳一先生は1983年に明治神宮の森の調査を行い、人間の足の下に何匹の土壌動物がいるかを、子供たちにも分かりやすく示しています。トビムシやダニ、ワラジムシ、ミミズなど約80,000匹が落ち葉の下で暮らしていました。
東京都のHP見ると東京都住民は1406万3564人(2022年)です。明治神宮の数値を参考に考えると、片足を25㎝×10cmとして、1m²は40倍、320万匹です。5m²で都民数を越えます。地上部に生きる人間をはるかに超える土壌動物たちが東京都の緑を守り、豊かな自然を守り、つくり出していることがわかります。
故・青木先生は本の最後の文に(P100)
(3)土壌が陸上世界を支えている
地上で活動する生物社会を支えているのは間違いなく土壌です。その土壌の健全さ、ゆたかさの程度を教えてくれるのが土壌動物です。その中でも、今まであまり注目されてこなかった土壌動物は、微生物とともに生態系のなかで重要な働きをしているばかりでなく、環境の診断役としても注目すべき存在であることを、これまでの説明からぜひわかっていただきたいのです。
とメッセージを記しています。
小池百合子東京都知事は9月15日の定例会見で、樹木保全の具体策を示すよう事業者に求めました。地上に生活する住民の民意と同時に、地面の下で都民の暮らしを守る土壌動物たちの「民意」にも耳を傾けてほしい。
(運営委員 清水 卓)